V 労働相談の傾向
1. 相談項目別相談の傾向
(1)賃金関係
◇5項目を一括した「賃金関係」の相談は全雇用形態に及び、8割以上(248件)の件数を「(4)賃金未払ほか」(129件) および「(5)残業代未払ほか」(119件)が占めています。
◇「賃金関係」のうち、「残業代未払ほか」が多数である主な雇用形態と業種は「社員」「パート」「契約社員」の男性および 「(10)卸・小売業・飲食店」であり、同じく「賃金未払ほか」については「パート」「派遣」「契約社員」の各女性と 「臨時・アルバイト」男女および「(4)建設・設計・重機業」「(15)労働者派遣業」「分類不能・その他」となっています。
◇これら「未払い」相談の内容は、無賃労働の強要、経営不振、離職関連の未払いなどであり、違法率が増加していること、 時給制の無賃労働は「残業代」ではなく「賃金(時給)」問題であること、などの傾向は、時給制の女性の無賃労働拡大、 不況、競争激化業種である「建設」「陸運」業界の未払いの深刻化、離職機会の多い期限付雇用労働者の賃金紛争の増加を示しています。
(2)解雇・雇止め・退職
◇相談件数は女性(139件)が男性(114件)を上回っていますが、全体の男女比率で見ると相談比率は桔抗しています。 最近は苛めによって自主退職に追込む例、労働者が解雇について争わない例が増え、 構成比は平年に比べて4.2ポイント、相談件数は37件減少しました。しかし「社員」「契約社員」の男女と、 「パート」の女性および「(10)卸・小売業・飲食店」「(18)その他サービス業」「(13)医療・福祉・医薬品業」など7業種の最多相談項目であることは平年と変わりはありません。
(3)就業規則・雇用契約
◇相談件数は平年の1.7倍となり59件増加しました。 172件中、約65%を女性が占めています。
相談は全雇用形態および16業種から寄せられ、相談比率の高い主な雇用形態は「パート」「社員」「契約社員」の女性。 業種では「(10)卸・小売業・飲食店」「(8)その他サービス業」「(20)分類不能その他」「(13)医療・福祉・医薬品業」などです。
◇この項目は、雇用と労働条件全般の原点であり、就業規則や雇用契約の欠陥は、労使関係を損ない、 紛争によるダメージをより深くします。また、「(11)解雇・雇止め・退職」「(21)差別・嫌がらせ・セクハラ」 「(22)経営問題・労務管理」とも連動する関係にあり、分布の態様も類似しています。 これらの項目の相談は業種が共通し、女性に多いという特徴かあり、相談件数の増加は労使の紛争要因が拡大していることを示しています。
(4)経営問題・労務管理
◇相談件数は平年の1.5倍となり52件増加しました。雇用形態別では「パート」女性、「社員」の男女で約74%を締め、 「臨時・アルバイト」を含め女性の相談比率が高くなっています。 「季節」を除く全業種で相談があり、分布の傾向は「(6)就業規則・雇用形態」と類似しています。
◇この項目は、雇用契約とその履行という面で「(6)就業規則・雇用契約」と不離一体で相乗的関係にあり、 相談の内容は、就業規則や契約の違反行為、労働時間や業務遂行などでの杜撰な管理、強権的な指揮命令、えこひいきその他ですが、 産業活動の中心的存在である「社員」「パート」の多数相談項目に挙げられ、ほぼ全業種から相談があり且つ増加していることは、 契約を基本とする正常な労使関係が崩壊してきていることを示しています。
(5)差別・嫌がらせ・セクハラ
◇相談件数は平年の1.3倍となり、23件増加しました。91件中、女性が66%を占めています。
雇用形態別では「社員」以外のいずれにおいても女性が大多数を占めており、 「社員」の場合も男女の構成比から見ると女性の相談比率が上回っています。
業種別では「(20)分類不能・その他」「(10)卸・小売業・飲食店」などを中心に17業種に及び、 分布の様相は前項の「(22)経営問題・労務管理」と類似しています。
◇この項目は労務管理の否定的側面を問題にしており、殆どは苛めの問題で、それによって自主退職に追い込もうとすること、 職場の差別、一方的な支配、暴言などが訴えられています。相談件数は100件未満であるものの平年より34%増加し、 相談が各業種に広く拡大していること、また関連する「就業規則・雇用契約」「経営問題・労務管理」と相まって、 生産関係の根本にある労使関係の基本部分の意識と経験が急速に失われ、腐りつつあることを示しています。
(6)労働時間・休憩・休日
◇平年に比べて17.6%減少しました。男性42件、女性47件で相半ばしていますが、 男女構成比から見ると男性の相談比率が女性を上回っています。また、項目の内訳は、「長時間労働」54%、 「休憩・休日」36%、「労働時間の変更」10%となっています。
◇雇用形態別では「社員」「パート」「契約社員」に99%が集中し、「社員」の比率は全体の構成比より約14ポイント高く、 59%を占めています。
業種別では20業種から相談があり、「(10)卸・小売業・飲食店」「(18)その他サービス業」 「(4)建設・設計・重機業」で約50%を占めています。
◇この項目は、労働強化の指標となる項目で、残業代未払い(日給制では賃金未払い)、労働災害、労務管理などに関連しており、 雇用形態、業種とも分布の傾向は類似しています。
(7)雇用保険・労災保険
◇相談件数は平年の1.2倍であり、女性53件、男性40件で女性が上回っています。雇用形態別では、 相談比率で「パート」の女性が最も多く、「社員」男性が続いています。 また、業種別では「(20)分類不能・その他」「(10)卸・小売業・飲食店」「(4)建設・設計・重機業」の上位相談項目となっています。
◇この項目は、「パート」では主として雇用保険加入条件に関して、また「社員」では労災保険の給付に関しての相談であり、 未加入離職者の遡及加入問題、保険料を控除しながら加入していないなどの相談もあります。
(8)労災・職業病・安全衛生
◇相談件数は平年の1.5倍。男性43件、女性29件で、件数、相談比率とも男性が突出していますが、雇用形態別では男性が「社員」、 女性は「パート」が過半数を大きく上回っており、業種別では「(29)分類不能・その他」「(4)建設・設計・重機業」 「(13)医療・福祉・医薬品業」、「陸運・倉庫業」など15業種に及んでいます。
◇この項目では、従前からの「事故隠し」に加えて、本州と北海道の人材供給ネットワークの間で責任の所在が不明確になる問題、 休業補償の手続き放置、療養期間中の出勤強要や退職強要、苛めによる心身症の発症問題など、内容は複雑多岐にわたり、拡大しています。
(9)その他項目
◇相談件数の少ない他の項目では、「派遣・人夫貸し」12件の殆どを「派遣」男女が占め、 「職業紹介・求人」21件の大部分を「不明・その他」が占めるほかは、 各項目とも相談者全体で多数を占める「社員」男女および「パート」女性で大部分を占めています。中でも、 平年より30件(62.5)増加した「(10)有給休暇」、同20件(64.5)増加した「(12)合理化・倒産・企業閉鎖」、 その他「(17)健康保険・年金問題」「(18)税金問題」の相談の多数が、特定の雇用形態から集中的に寄せられているという特徴があります。
2. 男女雇用形態別の相談傾向
(1)社員
◇相談の傾向から「解雇・退職」「長時間労働」が二大問題であり、これに関連して女性は「(6)就業規則・雇用契約」 「(21)差別・嫌がらせ・セクハラ」「(22)経営問題・労務管理」の相談が比較的多く、 男性の相談は「(5)残業代未払ほか」「(4)賃金未払ほか」が多いという違いがあります。 また「(7)配転・出向・離籍」「(12)合理化・倒産・企業閉鎖」「(15)退職金」、「(16)雇用保険、労災保険」 「(19)労災・職業病・安全衛生」の問題は大部分が男性の相談となっています。
「(19)労災・職業病・安全衛生」「(21)差別・嫌がらせ・セクハラ」「(22)経営問題・労務管理」は平年と比較して増加しているのに対し、 「(4)賃金未払ほか」「(5)残業代未払ほか」「(6)就業規則・雇用契約」は減少しています。 「(22)経営問題・労務管理」は違法率も増加しました。
◇「社員」職場では、不法な労務管理、職場の苛めなどが拡大し、これによる「解雇・退職」および「長時間労働」は、 男女いずれにおいても大きな問題となっています。特に女性はこれを深刻な問題として捉え、それ自体を相談事案にしているのに対して、 男性は人事や経営の問題などを含めて構造的に捕らえ、「賃金・残業代未払ほか」の問題に焦点を合わせています。 また労災に関しても男性の大きな問題となっています。
(2)パート
◇全相談件数の26%を占め、男女別では女性が9割以上を占めています。平年に比べて相談件数、構成比とも増加しました。
◇相談の傾向は男女の方向が大きく異なっていることに特徴があります。女性の上位相談項目は「(11)解雇・雇止め・退職」 「(22)経営問題・労務管理」「(6)就業規則・雇用契約」「(10)有給休暇」「(21)雇用保険・労災保険」「(4)賃金未払」であり、 これらには、女性パートに対する社員管理職の強圧的支配の現実があり、改善や適正化を求める女性パート労働者の叫びがあります。
また男性は「(5)残業代未払ほか」「(9)労働時間・休憩・休日」「(11)解雇・雇止め・退職」「(22)経営問題・労務管理」 などが上位相談項目で、関心が社員男性に共通するものがあります。
しかしいずれの場合も、その背景・原因はパート労働者を低賃金で無駄なく働かせようとする使用者の狡猾さにあり、 労働者側には労働に関する知識と要求実現の意欲が求められます。
(3)契約社員
◇最多相談項目は男女とも「(11)解雇・雇止め・退職」であり、その他項目は男性が「(22)経営問題・労務管理」 「(5)残業代未払ほか」「(6)就業規則・雇用契約」「(9)労働時間・休憩・休日」であるのに対し、 女性は「(6)就業規則・雇用契約」「(4)賃金未払ほか」「(21)差別・嫌がらせ・セクハラ」「(22)経営問題・労務管理」 「(9)労働時間・休憩・休日」で、関心度や項目に違いがあり、女性は「社員」女性と同じ傾向を示しています。
このような違いには、「契約社員」の構成が、フルタイム「パート」と同類の雇用から、退職した社員の再雇用まで、 処遇や労働条件が多様であるという実態が反映されています。男性の相談傾向には、 継続雇用を前提としつつも1年の有期雇用であることによって生ずる諸問題や社員と同様にサービス残業が求められる月給制再雇用者などの現実が色濃く表れています。
(4)臨時・アルバイト
◇男女の相談者はほぼ均衡しており、「(11)解雇・雇止め」が男女共通の最多相談項目となっていますが、 男性は「(4)賃金未払ほか」や「(19)労災・職業病・安全衛生」も重視しています。
これには臨時雇用者の解雇・退職に伴う賃金未払問題、日雇い建設労働者の労働災害の事故隠し問題や労災保険の相談などがあり、 女性は「(6)就業規則・雇用契約」「(4)賃金未払ほか」「(22)経営問題・労務管理」「(16)雇用保険・労災保険」の相談が多く、 「パート」女性と同じ傾向にあります。
(5)派遣
◇相談件数の64%は女性が占め、「(11)解雇・雇止め」「(6)就業規則・雇用契約」および派遣固有の「(8)派遣・人夫貸し」 が男女共通の上位相談項目となっています。しかし女性は「(4)賃金未払ほか」が最多相談項目で、 「(22)経営問題・労務管理」「(21)差別・いやがらせ・セクハラ」も上位相談項目であり、「社員」女性と類似した分布傾向はありますが、 雇用主と使用者が異なる特殊な関係における問題の複雑さが反映しています。
(6)嘱託・季節
◇相談件数は「嘱託」で男女10件、「季節」で男女7件があり、前者で「(21)差別・嫌がらせ・セクハラ」に男女各1件、 後者で「(26)その他」に男女各1件の相談があるほか、各項目に1件づつ分布し、集中した特異な傾向はありません。
(7)不明その他
◇この項目は、相談において雇用形態を告げないものや雇用者でない請負者、失業者、経営者などを分類しており、 相談項目では「(26)その他」が男女共通の最多相談項目で、そのほか男性は「(11)解雇・雇止め・退職」「(19)労災・職業病・安全衛生」 「(16)労働保健・労災保険」などが比較的多く、女性は「(6)就業規則・雇用契約」「(16)労働保健・労災保険」などが比較的多くなっています。
W 相談の特徴と労働情勢
1.相談者および相談件数の増加
◇2005年相談の第一の特徴は、平年と比較して相談者が65人増加し、過去最高の990人となったこと、 これに伴って相談件数が165件増加し、1640件に及んだことです。その外見的要因は、相談者が平年の減少月(5月、6月、8月、12月) に各月10人〜33人増加したことにありますが前月比で各月3〜12人に過ぎず、 何よりも相談者の減少が殆どなかったことが大きく寄与しました。
◇相談の多かった項目の主要相談数(相談者の複数相談案件のうち主たる相談1件)は「解雇・雇止め・退職」174件、 「賃金未払ほか」108件、「就業規則・雇用契約」91件、「経営問題・労務管理」90件などで、 このうち特に増加した項目と増加数(対平年、以下同)は、「就業規則・雇用契約」「経営問題・労務管理」各37件、 「差別・嫌がらせ・セクハラ」19件などで、「解雇」「賃金」「労働時間」関係は減少しています。 また、相談者が増加した雇用形態と増加数は「パート」女性23人、「派遣」女性16人、「契約社員」女性11人、「派遣」男性11人で、 業種では「その他サービス業」30人、「ビル管理業」20人、「製造業」「労働者派遣業」各11人です。
◇「賃金」「労働時間」など労働条件の基本部分の相談者の減少は、その問題の改善が進んだように見えますが、依然として最多相談項目に挙げられ、 労働契約とその実現に関する相談が3点セットで激増したことは、問題が改善したのではなく、 契約という根本部分まで悪弊が進行したことを示しています。
陰湿かつ杜撰な労務管理手法が労働現場に日常化し、苛めによる自主退職、心身症による病気退職など、 「解雇・退職」を明確にし難い状況が広がり、経済社会からドロップアウトしているのが現実です。 これには、契約に基づいて働き、使用者側は労働者に働きやすい環境を提供するという基本的な問題意識が労使双方で希薄になり、 条件を無視して結果のみを求めるという非現実的な短絡的思考方法が一般化しつつある問題を指摘する必要があります。
2.労働相談に見る女性相談者の状況
◇第二の特徴は、相談者の急増が女性に集中していることです。前項で見るように、相談者増の主役は「女性」労働者です。 平年に比べて65人増えた相談者の85%、55人が女性であり、最も増えたのは「パート」23人(+1.7)で、 「派遣」16人(+123.1)「契約社員」11人(+33.3)では異常な伸び率となりました。
女性相談者の主要な雇用形態は「パート」「社員」「契約社員」(「不明・その他」を除く)で、女性全体の8割弱を占めており、 社員を除く非正規期限付雇用の女性相談者は全相談者の中で40%を占めています。主な業種別では「分類不能・その他」を除き、 「卸・小売業・飲食店」(93人56.0)、「その他サービス業」(73人64.0)、「医療・福祉・医薬品業」(66人81.5)に多数が集中し、 相談者数は少数ですが「商品斡旋リース業」で77.4%、「労働者派遣業」で75.9%を占めています。
◇道内就業者の41.7%である女性が、相談者の54.6%を占めていることは、 労働現場で女性が置かれている状況がいかに問題が多いかを物語っています。
女性の主要3雇用形態に共通する最多相談項目は「解雇・雇止め・退職」であり、女性相談者の増加に伴って相談件数が急増した 「就業規則・雇用契約」「経営問題・労務管理」が次位の相談項目で、「差別・嫌がらせ・セクハラ」「長時間労働・休憩・休日」 「賃金・残業代未払ほか」がいずれも上位の相談項目になっています。
このことは、「社員」とその他の雇用形態では発生する態様が違うとしても、前項および各項目の状況に記したように、 就業規則・雇用契約が無いか不備な中で、女性に対して不法な強権支配や差別、苛めなどが集中的に行われ、 長時間労働やサービス残業が女性にも拡大し、賃金・残業代が支払われないケースが増大しているものであり、 ケースは少ないものの重い心身症の訴えも増えてきています。
あとがき
全国的に好況が叫ばれ、団塊世代の定年退職がはじまる中で雇用が急速に伸びてきているとされる中でも、 北海道の経済・雇用情勢は依然として結氷したままで推移しています。
2005年の労働相談では、このような状況を反映して、「パート」を中心とするの女性労働者の相談が激増し、 これと共に「就業規則・労働契約」「経営問題・労務管理」の相談が増加しました。 道内の女性就業者割合が04年の40%から05年に41.7%に伸びたことでも明かなように、企業活動に女性労働者が急速度で進出しています。 しかしそれは圧倒的に非正規の期限付雇用労働者であり、そこに対しても支配管理の強化と労働強化が激しく行われている現実を労働相談の結果は物語っています。
産業が不安定な期限付雇用の労働者によって支えられ、労働条件が底辺まで落とされ、少子化に象徴される労働者の再生産が困難な社会は、 早晩崩壊するということを正視して、安心して働き、「人たるに値する生活の必要を満たす」ことのできる (労働基準法第1条)産業社会を総力で実現しなければなりません。